解剖

【 膝関節について 】

[ 膝関節における軟骨組織 ]

硝子軟骨:基質は半透明で均質にみえる。膝関節はこのタイプに入る。

[ 膝関節における関節の形状と可動性 ]

膝関節は蝶番関節であり、関節頭が円筒状で関節窩はそこにはまり込み、骨を曲げ伸ばしする1方向の回転運動を行う。  

[ 膝関節に作用する大腿の筋群と支配神経 ]

大腿の筋は3つの筋群に分けられる。前方の筋群(伸筋群)と後方の筋群(屈筋群)は膝関節を動かし、内側部の筋群(内転筋群)は股関節を動かす。

屈筋群(ハムストリング筋群:大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋)

 神経支配:大腿神経(腰神経叢:Th12~L4)に支配される。    

伸筋群(大腿直筋、内側広筋、外側広筋)

 神経支配:坐骨神経(仙骨神経叢:L4~S3)に支配される。

膝関節は大腿骨・脛骨・膝蓋骨との間の関節で、腓骨は直接関与しないが、膝関節に関わる靱帯や筋の付着部となる点で関与する。

大腿骨下端と脛骨上端との間を大腿脛骨関節といい、大腿骨下端前面と膝蓋骨との間を大腿膝蓋関節という。

大腿脛骨関節:この関節は蝶番関節(一軸性)の一異型で、大腿骨と脛骨の両内側顆と、両外側顆がそれぞれ適合する関節である。関節頭である大腿骨顆は比較的強い凸面をなすが、関節窩である脛骨窩は平坦で、その適合性を助けるために線維軟骨性の内側半月および外側半月が存在する。

 主な働き:大腿骨顆を横断する横軸の周りで行われる屈曲と伸展が主な運動である。ただし、屈曲位では下腿軸の周りで回旋も可能になる。 

大腿膝蓋関節:大腿骨の膝蓋関節面と膝蓋骨の内・外側関節面との間の関節である。しかし、大腿膝蓋関節は大腿脛骨関節の動きに伴ってのみ働き、関節包や靱帯なども大腿脛骨関節と共有である。

 主な働き:大腿脛骨関節の屈曲に伴って、膝蓋骨は大腿骨の顆部関節面の中心溝を滑る。膝蓋骨尖は膝蓋靱帯により脛骨に固定されているため、矢状面でその働きをみると脛骨粗面を支点とした、振り子運動をする。

[ 膝関節構成要素 ]

①関節包

大腿骨前面の関節軟骨縁の上部と大腿骨側面の内・外側上顆のやや下あたり、そして、大腿骨後面の関節軟骨縁の上あたりから起こり、脛骨関節面の周縁に付着し、腓骨は関節包の外にある。関節包の前面は膝蓋骨下縁から起こる膝蓋靱帯に補強され、内側と外側はそれぞれ内側側副靭帯と外側側副靭帯によって、後面は斜膝窩靱帯と弓状膝窩靱帯で補強されている。その他、大腿骨と脛骨の間には前・後十字靱帯が存在する。

②関節半月

外側半月も内側半月も前額断面はほぼ三角型で、周縁は厚く関節包内面に付着し、内縁は薄くなって遊離している。両半月とも脛骨の顆間部以外では骨に付着しない。関節半月は、大腿骨顆と脛骨顆の適合性を増すと共に、より大きな接触面を得ることによって体重支持などの圧力を分散させている。また、半月板が大腿骨と脛骨の間に介在することで、滑液の層が2重になり、摩擦の軽減に役立つ。膝関節は人体中最も大きな荷重を受ける関節で、常時変化する荷重に耐えている、その時、大腿骨と脛骨間のショックアブソーバーとしても働く。

 ②―1(内側半月)はC形で、後部の方が幅は広く内側側副靭帯にしっかり付着しており可動性は少ない。

 ②―2(外側半月)はO形で、前後の幅はほぼ同じであり外側側副靭帯とは付着しておらず可動性が大きく、膝関節が屈曲位になると約12mm後退する。 

   機能 1)関節の適合性を良好にする。

      2)緩衝作用をもつ

      3)可動性を適正に保つ

      4)関節内圧を均等化する

      5)滑液を分散させる

③十字靱帯

 主な役割は大腿骨と脛骨の前後方向の過剰な動きを制限する。

 ③―1(前十字靱帯)は脛骨の前顆間区から大腿骨外側顆のない面に至る。また、大腿骨に対する脛骨の前方移動、膝屈曲時の脛骨の外旋、さらに、わずかであるが膝の伸展、過伸展を予防することである。また、大腿骨顆部のころがり運動と滑り運動を調整する役割を果たす。前十字靱帯は、上・後・外方に捻れた繊維配列を持ち、前内側繊維束と後外側繊維束の2つの繊維束からなる。

屈曲運動では、靱帯の捻れは増大し、後方線維は緊張する。伸展位では、靱帯のすべてが緊張している。屈曲30°~60°の間にこの靱帯にかかるストレスは最小になる。

 ③―2(後十字靱帯)は脛骨から大腿骨に向かって、上・前・内方に向かって扇状をした膝で最も強い靱帯である。機能は大腿骨に対する脛骨の後方移動を防止することである。それに加えて、膝の伸展や過伸展を防いでいる。また、膝の回旋安定性の維持に補助的な役割を果たし、回旋の中心軸として機能する。前十字靱帯と一緒になって、膝関節伸展のねじ込み運動(screw-home movement)における回旋誘導の働きをしている。膝伸展位で緊張、軽度屈曲でゆるみ、屈曲とともに緊張する。

④滑膜

大腿骨の顆間窩ならびに脛骨の内側顆と外側顆の内面に向かって、前方および後方より入り込んでいる。前方ではこれがヒダとなり、それぞれ左右の翼状ヒダと正中部の膝蓋窩滑膜ヒダをつくっている。後方のものは十字靱帯の前で反転している。よって両十字靱帯とも関節包内層の滑膜と外層の繊維膜の間に存在している。

⑤側副靭帯

 ⑤―1(内側側副靭帯)は大腿骨内側上顆から起こり、脛骨内側顆と一部は関節包の繊維膜の中へ放散し、内側半月に付着する扁平な幅の広い靱帯である。       

 主な機能は、1)膝関節の外反ストレスに対して関節の内側を補強する。

       2)下腿の外旋運動時に緊張し、外旋を制限する。

       3)膝関節伸展時に緊張し、伸展運動を補助的に制限する。

 ⑤―2(外側側副靭帯)は大腿骨外側上顆より腓骨頭に付着する円柱状の靱帯である。関節包や外側半月に付着しない。膝窩筋腱や大腿二頭筋の一部は関節包と外側側副靭帯の間を通っている。外側側副靭帯は大腿二頭筋、膝窩筋、腸脛靱帯などによって補強されている。

 主な機能は、1)膝関節の内反ストレスに対して関節の外側を補強する。

 注)内・外側側副靭帯はともに、膝関節屈曲時に一部は弛緩するが、内側側副靭帯の前縦走線維かえって緊張している。伸展時や外旋時には緊張し、内旋時には弛緩する。また、膝関節には生理的外反(FTA)があり、内側での負担が大きいことから内側側副靭帯が大きく強い。

⑥膝蓋靱帯

 大腿四頭筋腱の続きで、膝蓋骨の下部から起こり、脛骨粗面に停止する。

⑦膝蓋支帯

 膝蓋靱帯の内側で、内側広筋腱の線維よりなるものを内側膝蓋支帯といい、外側にあって、外側広筋腱と大腿直筋腱の一部によって形成されるものを外側膝蓋支帯という。膝蓋靱帯と共に膝蓋骨を保持する。

 主な機能 ・側方動揺阻止に役立つ

⑧斜膝窩靱帯

 半膜様筋腱の下端から起こり、膝関節包の後方を斜め上外方へ向かい、大腿骨の外側顆後面に向かい、大腿骨の外側顆後面に付着する。関節包の後面を補強する。

⑨弓状膝窩靱帯

 大腿骨の外側後面から起こり、膝窩筋腱の上を横切り腓骨頭尖に停止する。関節包後面を補強する。

⑩膝横靱帯

 内・外側半月の前縁を結んでいる靱帯

⑪後半月大腿靱帯

 外側半月後方から大腿骨内側顆の内面に至る靱帯

⑫滑液包

 膝関節の周囲には多数の滑液包が認められるが、その中でも膝蓋骨の上で大腿四頭筋の腱に覆われている膝蓋上包は大きく、膝関節腔と交通している。膝蓋上包は大腿骨遠位端上での大腿四頭筋の自由な動きを可能にしている。

[ 膝関節における 運動学的所見 ]

①2関節筋(大腿直筋・ハムストリングス:上腕二頭筋・上腕三頭筋長頭)  

 2つの関節にまたがって位置するだけでなく、両関節に作用する。多くの多関節筋は関節から付着部までの距離が短く、複数関節の同時運動の制約になる。膝伸展位で股関節屈曲を試みるとき、ハムストリングスは股屈曲と膝伸展とを同時に可能にするほど長くないため運動は困難になる。これを(2関節筋の制約作用)という。2関節筋が伸張されたときの働きには、腱作用と靱帯作用とがあり、股伸展時に大腿直筋による腱作用は膝でおこり、下腿の伸展となる。一方股関節前面では筋腹が関節を保護するように働く。これが、靱帯作用である。

②膝蓋骨の働きと運動軸の関係

 膝蓋骨の3つの働きのうち、大腿四頭筋の効率を良くする事が上げられる。大腿四頭筋は膝蓋骨を介して脛骨粗面に停止する。

膝蓋骨は伸展機構の中で伸筋群が最も効率よく作動するように働く定滑車の役割を持つ為、大腿四頭筋の張力は方向を変え膝蓋軸に作用する。このことを2つの面からみると、矢状面から考えた場合伸展時において大腿四頭筋の牽引力は膝蓋腱の平面状に作用する為、伸展力を脛骨と大腿骨に押しつける力とに分解される。この時、膝蓋骨は関節面と膝蓋靭帯との距離を離し定滑車を作り出すことで回転中心軸を遠ざけ牽引力を増大させている。前額面から考えた場合、外側に鈍角に存在するFTAにより膝の伸展力と膝を外側へ引っ張る力に分離されるが膝蓋骨の定滑車作用により膝にかかる力までも全て伸展の為に使われるようになる。

 以上の2つの面から膝蓋骨が定滑車の機能を果たすことにより、伸展効率を高めるといえる。

③終末強制回旋運動(screw-home movement)について

 これは膝関節における回旋運動に関連するものであり、真の回旋と見かけ上の回旋で説明できる。

 真の回旋とは、脛骨関節面に対して大腿下部は前後方向に約2倍の長さがある為、大腿骨は脛骨関節面上で転がりと滑り運動を行う。形態的には大腿骨外側顆は内側顆よりも大きいが関節面は短い為に膝関節屈曲初期に内側顆より長く転がり運動を行うことになる。膝関節の伸展時において側方安定性を確保する為に内(MCL)・外側側副靭帯(LCL)が存在するが付着部の違いによりLCLは膝関節屈曲時に完全に弛緩するのに対しMCLはごくわずかに弛緩するだけでなお緊張下にある。また、前後方向への安定も必要でありこれを補うのが前(ACL)・後十字靭帯(PCL)である。ACLは付着部と走行により膝関節屈曲運動時に大腿骨外顆の後退と転がり・滑り運動を制御する。これに対してPCLは膝関節伸展運動時に大腿骨内側顆の前進と滑り・転がり運動を制御する。よって、膝屈曲時は外側顆をACLが内側顆をMCLが誘導し、膝伸展時は外側顆をPCLが内側顆をLCLが誘導する。これに伴い、膝関節の関節包に付着する半月板の前後方向の移動作用が行われる。半月板は内側のみ側副靭帯に付着を持つ為、内側側副靭帯の動きに誘導される。

 見かけの回旋とは、FTAに伴う膝関節の内側強化と内側脛骨上関節面は前方向に凹状であるのに対し、外側脛骨上関節面は平坦か、わずかに凸状となっている為に起こる大腿骨外側顆の可動性の優位によって回旋が大きく行われているようにみえる現象である。 以上の2点より完全伸展位からの屈曲初期に下腿は内旋し、屈曲位から伸展してゆくときには外旋する。完全伸展位に近づくと外旋運動は大きくなるということがいえる。

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