糖尿病の運動療法について
<糖尿病の成因>
IDDM(以下、Ⅰ型)、NIDDM(以下、Ⅱ型)共にその発症には遺伝的な因子と後天的な因子が関与するとされている。Ⅰ型では自己免疫、遺伝因子の関与によるインスリン分泌能の喪失が有力視され、Ⅱ型はいくつかの遺伝子異常がその発症に密接に関与していると考えられている。しかし、過食、運動不足、それに基づく肥満、現代社会におけるストレス、加齢などの後天的な因子も発症に関与し、これらの因子によってインスリンの分泌低下や、インスリン抵抗性がもたらされると考えられている。
<糖尿病の運動療法の目的>
身体活動により、耐糖能やインスリン作用機構を改善し、糖尿病をコントロールすることが本来の目的である。また、運動が身体機能に及ぼす影響を利用して、糖尿病およびその合併症、高血圧などの関連疾患のリスクを低減させることも重要である。最終的には他の疾患に対する運動療法と同様に、日常の身体活動を高めることにより、気分を爽快にし、各対象者およびその家族のQOLを可能な限り高く維持することが最大の目的であろう。
<運動処方の原則>
運動による効果を最大限とし、リスクを最小限にするためには、対象者の糖尿病の種類・病態、体力、他の治療法、さらに生活環境などを考慮して、
- 運動の種類、
- 運動強度、
- 運動継続時間・実施時間、
- 運動頻度
の4要素を、個々人のライフスタイルに合わせて至適に組み合わせ、継続可能な内容で運動が処方されなければならない。一日の運動消費エネルギーが240~320kcalとなるようにする。
1)運動の種類
糖尿病などの生活習慣病の予防・治療を目的とした運動の種類は、以下の5項目を考慮して設定されなければ継続的な効果を求めることは難しい。
- 全身の筋肉をできるかぎり広範に使用する。
- 筋肉にリズミカルな刺激を与える。
- 運動強度の設定、運動量の確認がしやすい。
- いつでも、どこでも、誰にでもできる。
- 無理なく、楽しく、永く続けられる。
これらの条件を総合的に満たすため、動的あるいは静的な運動と体操を組み合わせた運動種類の選択することが基本となる。
2)運動強度
合併症のないⅡ型では30~80%最大酸素摂取量、肥満を伴うⅡ型では30~60%最大酸素摂取量、合併症を有する場合には30~40%最大酸素摂取量とすると良い。
まず始めは、運動によるエネルギー消費の目標を一定期間内に1日総摂取エネルギーの10%程度とするとリスクも少なく継続できる。
万歩計を用いる場合には1日1万歩以上(最低でも7000歩以上)を目標とする。
3)継続時間
継続的な疲労を生じない程度でライフスタイルへの影響が少ない範囲とする。主運動となる有酸素運動については、合併症のないものでは1回15~20分、肥満を伴うものは運動強度を一段下げて1回20~30分を目安とする。
4)実施時間
食後1~2時間が理想である。コントロールの良いⅡ型の場合は特に制限はない。ただし、極端な空腹時と食事摂取後30~60分は避ける。多忙で運動する時間を避けないときは通勤の工夫などを相談する。
5)運動頻度
基本は1日2回、週3回以上、中2日以上運動の少ない日を作らない。運動療法開始当初は毎日、慣れれば週休2日、習慣となれば週3日以上訓練としての運動を行う。
運動時エネルギー消費量(kcal/時) 厚生省保健医療局健康増進栄養課
項目 | エネルギー消費量 | 項目 | エネルギー消費量 |
散歩 | 70~90 | ジョギング | 290~350 |
自転車(普通) | 130~150 | 階段昇降 | 220~270 |
エアロビダンス | 200~230 | ローラースケート | 340~410 |
水泳(平泳ぎ) | 490~590 | 縄跳び | 390~470 |
筋力トレーニング | 470~560 | ランニング | 590~700 |
<自覚的運動強度>
%最大酸素摂取量:30%-最高に楽である。脈拍数;95
40%-非常に楽である。脈拍数;110
50%-楽である。 脈拍数;125
60%-やや楽である。 脈拍数;135
70%-ややきつい。 脈拍数;150
<上記の資料から考えるプログラム>
1日2回とすると1回毎の運動時エネルギー消費量は120~160kcalとする。時間は30分で、最大酸素摂取量の30~60%。
①自転車:エアロバイクで10分間。約40kcal(訓練室で数値)
②縄跳び:3分間3セット
6.5kcal/分~7.8kcal/分=58.5~70.2kcal
③筋トレ:5分間
39.2kcal/分~46.7kcal/分
①+②+③=137.7~156.9kcal/分
この他にも、日中散歩を1時間することにより70~90kcalを消費することができる。また、退院後水泳やローラースケートなど、患者本人に興味のある運動を持続させることが必要である。
<参考文献> 理学療法ハンドブック 改訂第3版 協同医書出版社