神経系 脊髄関連 脳血管疾患

失調症 ataxiaPTプロセスマニュアル

●はじめに


運動失調とは、筋活動の秩序の崩壊あるいは協調性の不全状態をさし、その本質は共同運動が障害され、運動の分解が生じた状態と考えられる。これらは神経系の障害部位により分類され、大きく分けると小脳性、脊髄性、大脳性の3種類に分類できる。

● 基礎知識


《小脳性失調症》
1.疾患について
ヒトの動作は主働筋、拮抗筋、共同筋を含む多数の筋の協調した共同運動からなり、この運動のプログラムを作るのが小脳の働きである。この働きが障害され共同運動に異常をきたしたものを共同運動不全と呼び、小脳性失調症の本態と考えられる。

◆ 小脳の運動制御に関する構造

● 小脳の働きは、

1)運動を適切に、しかも迅速に開始する
2)共同運動を行う
3)筋緊張を維持し、姿勢を保持する
などがあり、これらの機能を果たすために大脳運動野(皮質)、中脳・橋、脊髄などとの回路を有し、情報のやり取りを行っている。この回路の一部でも障害が生じると小脳失調が生じる。
2.原因疾患
小脳性失調症起こす疾患は、大きく3つに分けられる。
  1) 小脳血管病変
  2) 小脳腫瘍
  3) 小脳変性症

《大脳性失調症》
1.疾患について
前頭葉・側頭葉・頭頂葉などの障害でおこるとされている。最も知られているのは前頭葉性運動失調で、多くは腫瘍のときに見られる。また、前頭葉性運動失調は小脳性のものと似ており、病巣と反対の身体に出現する。
 前頭葉の機能障害として手足の動きが、ぎこちなくなる(前頭葉性失調:前運動領野の近くで小脳皮質と連絡する線維が損傷)、運動性失語症(他人の言葉は理解するが、話すことはできない)、精神活動の抑制と感情や理性のコントロールが難しくなる(意欲の低下・無関心、表情の低下)などが現れる。
 また、頭頂葉の機能が障害されると複合感覚(2点識別覚、皮膚書字覚、立体認知感覚)が障害される。その他にも、指失認、左右弁別障害(左右区別不能)、計算不能、失書などのゲルストマン症候群が出現する。

2.原因疾患
 1)前頭葉型:穹隆部髄膜腫・正常圧水頭症
 2)頭頂葉型:腫瘍・血管障害
 3)視床型 :視床症候群

《脊髄(後索)性失調症》
1.疾患について
脊髄後索性の運動失調は深部感覚入力の障害による失調で、脊髄後索以外でも末梢神経から視床への入力経路のどの部位が障害されても同様の失調が起こり得る。深部感覚には関節覚(運動覚・位置覚)、振動覚、圧覚などがあり、感覚受容器は筋紡錘や腱紡錘(ゴルジ器官)となっている。
 この感覚が障害されると立位保持ができなくなり、さらに閉眼によって体幹の動揺が激しくなり転倒しやすくなる。(ロンベルグ徴候)また、歩行でも同様に暗がりや閉眼では体幹の動揺が激しくなり転倒の危険がある。
 小脳性失調との鑑別はこの深部知覚の障害の有無で、末梢神経性失調との鑑別は温痛覚の有無で判断できる。

2.原因疾患
1)脊髄癆:原因は梅毒で30~50歳で発症しやすい。下肢、腰部の電撃痛、膝反射消失、瞳孔の対光反射消失が3徴候。
2)フリードライヒ運動失調症:常染色体劣性遺伝を示す。20歳以下の若年発症。
症候は下肢優位の後索徴候で腱反射は消失。バビンスキー徴候、構音障害、知能障害、脊柱側弯などもみられる。

● 評価項目

1.評価の流れ
1) 患者の情報を知る(リスク管理やコミュニケ-ションをとる上でも重要)。
・カルテ、他部門、家族、本人から評価を行うための情報を得る。
2)検査測定を行う。
・失調症の検査
・運動機能の評価(MMT、ROM-TEST、動作分析等)
3)統合と解釈
・検査測定から得られた情報を統合的、科学的に比較検討して治療方針や治療度合を決定する。さらに治療経過を把握、患者の予後を予測できる。
4)問題点の検討
・Impairment level・Disability level・Handicap levelで検討する。  
5)プログラムの立案
・患者の問題点に対する治療法を選択する。
6)ゴール設定
・患者の予後を予測して、患者本人や家族のニードから目標を決定する。
7)評価
・治療を行いながら定期的に評価を行う。患者の回復具合と治療の効果をみて、時にはゴール設定の変更を行う。
・初期評価・中間評価・最終評価に分かれる。

2.情報
1)基礎情報 カルテなどから情報収集。
 患者氏名、年齢、性別、体型、住所
2)医学的情報 カルテなどから情報収集。
 診断名、障害名 医学的処置(禁忌事項の確認)
 現病歴(発症時期) 術式(手術を行った場合)
 既往歴、合併症 服用薬(副作用・効果など)

3)他部門の情報
 主治医・看護婦・PT・OT・ST・MSW・その他。
4)社会的情報
 教育歴 趣味
 職業歴 住居環境
家族関係 ホープ(要望) できるだけ家族や患者本人から直接聞く。
経済状況

3.検査・測定
《小脳性失調症・大脳性失調症》
運動失調症の運動障害の本質は協調運動障害であり、共同運動の不全状態である。
ここに、小脳性・大脳性運動失調の検査法を挙げる。

《小脳性失調症の評価》
1.筋緊張検査 一般に筋緊張は低下する。
緩徐な関節他動運動を行ってその際の抵抗を触知するのに加え、立位で上半身を揺さぶり低緊張による上肢の振子運動の増大をみる腕振子検査を行う。
2.体幹失調検査 虫部の障害による体幹の平行保持不全。
座位での体幹協調機能検査(内山ら)が有用。
患者に足部を床につけない椅子座位をとらせ、外乱を与えてその安定性を4段階に判定。
3.立位平衡検査
A.両脚直立検査
頭位を正しく保って正面を向かせ、両足をそろえて両足先を接した直立位を保持するように指示する。30秒間観察し、身体動揺の有無、程度および転倒傾向を開眼、閉眼の両条件で調べる。閉眼時にて身体の動揺が顕著になる場合をRomberg徴候陽性という。
小脳性失調症の場合、閉眼閉脚立位で30秒間保持可能であれば、歩行可能と考える。
B.マン検査
両足を前後の一直線上におき、足先と踵を接して直立させ、頭位を正しく保って正面を向かせる。開眼、閉眼の両条件でそれぞれ30秒以上観察して、進退の動揺の有無、程度および転倒傾向を調べる。
C.単脚直立検査(片足立ち検査)
姿勢を正しくして単脚にて直立し、他側の脚を軽く挙上させる。30秒間観察して、身体の動揺、接床、転倒傾向を開眼、閉眼の両条件で調べる。
D.継ぎ足歩行検査
後方の足のつめ先に前方の足の踵を接するように一直線上を歩行させ、姿勢、身体動揺および転倒傾向を調べる。
E.立ち直り・平衡反応検査
両脚直立姿勢をとらせ、軽い外乱を与えて、姿勢の変化、足の踏み出しなど立ち直り反射・平衡反応の様子を観察する。
F.斜面台検査
斜面台に立たせて、台の傾斜に耐える際の姿勢および転倒傾向を観察する。

4.歩行分析
(酩酊様歩行,失調歩行) 歩行時の歩幅が広く、下肢の動きはdysmetric(共同運動障害)で足を床に打ちつけるように歩く。身体全体が不安定で転倒しやすい。杖を使用しても改善しない事が多い。
軽度の失調歩行の場合、継ぎ足歩行検査を行うと不安定性が顕著にみられる。


5.四肢運動検査
<上肢>
・指鼻試験 ・鼻指鼻試験 ・指耳試験 ・線引き試験
・コップ把持試験 ・膝打ち試験 ・過回内試験
<下肢>
・足指-手指試験 ・踵膝試験 ・脛叩打試験
・膝屈曲試験

6.時間測定検査 運動の開始および完遂が著名に遅延し、動作全体が緩慢になっている事が多い。検者の手を合図と共に握らせると、著名な遅れが認められる。

7.共同運動検査 Babinskiの股屈現象(背臥位からの起き上がりの際出現)や立位で上体を前屈・後屈させたときの下肢の予測性姿勢制御の消失を観察。後者の場合、上体と下肢の共同運動が消失しているため、身体の重心が前方もしくは後方に大き移動しバランスを崩す。

8.反復運動検査 上肢は膝打ち試験で前腕回内・回外反復運動のリズムの乱れを観察。下肢は床叩打試験(足底で床をリズミカルに叩く)を命じ、足関節反復運動のリズム障害を観察する。

9.企図振戦検査 鼻指鼻試験,足指-手指試験などにおいて目標物近くで動揺が激しくなることを観察する。

10.跳ね返り現象検査 患者に肘を思いきり曲げるように指示。検者は患者の手首を保持し抵抗をかけ、急に手首を離す。正常では肘の屈曲をすぐ止めることができるが、小脳失調では制動が困難。患者が自分の顔を打たないように細心の注意を払う。

11.指示検査
・Barany指示試験
・腕偏位試験
12.重量感覚検査
手にいくつかの重りを負荷して判別をさせる。判別困難を訴える。
13.書字検査:大字症 書字を行わせると字の大きさが次第に大きくなる現象。
14.言語検査
小脳構音検査 構音の円滑さが失われ、発語が不明瞭かつ緩慢になり、もしくは音節が切断されたような話し方になり、ときに爆発的な発声がみられる。

《脊髄(後索)性失調症》
1)感覚テスト(深部感覚)
a.関節覚(運動覚・位置覚)
b.振動覚
c.圧覚
d.温痛覚
※a・b・cは減弱または消失、dは正常(異常の場合は末梢神経性失調症)

 2)ロンベルグテスト(閉眼による立位保持で動揺が著明)
両足を揃えつま先を閉じて立たせ、体が安定しているかどうかをみる。次に閉眼させて(このとき両手を前方に挙上するのもよい)、身体の動揺をみると、大きく揺れて倒れてしまう事がある。これをロンベルク徴候陽性とする。

3)測定異常テスト
測定異常とは随意運動を目的のところで止めることができない現象のことで、目的とするところまで達しないのが、測定過小hypometriaであり、行き過ぎてしまうのが測定過大hypermetriaである。
a.Arm Stopping Test
仰臥位で、腕を伸ばし、示指を耳朶にあてるように指示する。前腕を曲げるところまではかなり正確にゆくが、それから先、耳朶にあてるまでがうまくできず、指は耳朶を通り越してhypermetriaを示したり、それより前に停止してhypometriaを示す。
b.コップを持たせる方法
コップをとるしぐさが健側と患側とで異なってくる。患側では指は過度に開き、手を過度に伸展し、コップより上すぎる空間にもっていってから、コップをつかむ。

c.過回内試験
手掌を上に向けて両腕を水平に挙上させ、次に手を回内させて下向きにさせると、患側の手は回りすぎて患側の拇指は健側のそれより下方に行く。

d.線引き試験1枚の紙の上に約10cmはなして2本の平行な縦線を引き、患者にこの縦線間に直行するような横線を左から右に引かせる。縦線のところで止められないhypermetriaを呈したり、手前で止まったりhypometriaすることが多い。

4) 振戦テスト(粗大振戦)
5) 反射テスト(後索障害があればそのレベル以下の反射は消失)

《共通検査項目》
①MMT 
失調症は上肢よりも体幹および下肢に出現することが多い。筋力低下も骨盤帯筋群および下肢筋群にみられ、とくにハムストリングス、足関節底屈筋、足趾屈筋群と股関節外転筋群の弱化が目立つ。
②ROM-TEST
 関節拘縮、変形の部位と程度をみる。
③ADLテスト:FIMまたはBarsal Index
④動作分析:背臥位から立位・歩行に至る一連の動作分析

●問題点(考えられる項目)

《小脳性失調症・大脳性失調症》
<Impairment level>
#1.共同運動失調
#2.平衡障害
#3.測定障害
#4.協調性障害
#5.言語障害
#6.筋力低下
#7.関節可動域制限
<Disability level>
#10.歩行障害
#11.コミュニケーションの障害
#12.立位保持困難
#13.ADL能力低下
<Handicap level>
#14.家庭復帰困難
#15.職業復帰困難

《脊髄(後索)性失調症》
<Impairment level>
#1.運動失調(協調運動障害)
#2.下肢筋力低下
#3.下肢関節可動域制限
#4.起立性低血圧
<Disability level>
#5.歩行障害
#6.立位保持困難
#7.ADL能力低下
<Handicap level>
#8.家庭復帰困難
#9.職業復帰困難

●ゴール設定

短期ゴール:下肢筋力増強
下肢関節可動域改善による体重支持機能の向上と歩行の安全性獲得
協調性の向上
巧緻動作の獲得
起立性低血圧の影響の少ない起居・移乗動作の獲得
車椅子や四つ這いによる移動動作の獲得
体重軽減および肥満の予防
コミュニケーション能力の獲得など

長期ゴール:退院後の運動の習慣づけ
家族の介助による家庭生活の自立
獲得した能力、機能の長期的維持

※ 小脳性・大脳性・脊髄(後索)性失調症のすべてにおいてゴール設定は共通している。

●治療プログラム

《小脳性失調症・大脳性失調症》
1.フレンケルの運動
2.上肢・下肢末梢部の重錘負荷(筋力増強)
3.弾性緊縛帯
4.固有受容性神経筋促通法(PNF)
5.失調における運動学習

以下に運動の動作と特徴および評価ポイントを示す   
動作 特徴と評価ポイント
背臥位からの寝返り 運動失調患者の寝返りでは頸部および体幹の屈曲を伴う回旋がみられず、頸部・体幹を伸展し下肢で床を蹴って起き上がろうとする(反り返りパターン)。
これに対して、頸部立ち直り反応を利用して、後頭部と下顎を保持して頸部の屈曲・回旋の誘導により体幹の屈曲・回旋を促通し正常パターンの寝返り動作を再学習させる。
起き上がり 背臥位から上体を起こそうとすると、バビンスキ-の股屈現象がみられ、下肢が挙上し、起き上がりが困難となる。
これに対し、体幹の回旋を十分の加えて
側臥位より起き上がる動作を学習させる。

長座位・椅子座位の保持 長座位では体幹にリズミック・スタビリゼーションの手技で軽く外乱を小刻みに与え、体幹筋の同時収縮を促す。さらに大きな外乱を与え、平衡反応の個々の運動オーバーシュートを抑制しながら、正確性の高い動作を学習させる。
椅子座位では足底を床から離しての座位保持練習およびわずかに外乱を与えてのバランス運動練習を行う。
立ち上がり 運動失調症では、股・膝関節屈曲位での中間姿勢の保持が困難である。
椅子からの立ち上がり動作の中間姿勢を図に示すが、円滑な立ち上がり動作遂行のためには、中間姿勢を保持させる運動学習が必要である。

床からの立ち上がり動作では、四つ這い位からの高這い位への移行および高這い位から立ち上がる際の重心の滑らかな後方移動の運動学習が重要である。
立位保持 両足を閉じて揃えた立位姿勢が可能となるよう、立位保持練習を段階的に行う。開眼で両足を20cm拡げた立位保持からはじめて、閉眼,閉脚立位保持へと進める。
身体動揺が激しい場合には、ジョイント・アプロキシメーションの手技(図にて説明)で骨盤または肩甲帯を両手で保持して下方に圧迫を加え、体幹筋、骨盤周辺筋および下肢筋の同時収縮を促通する。
各課題で30秒間の保持が可能となれば、次の課題に移る。
最後の閉眼・閉脚立位が30秒可能になれば歩行が可能になると思われる。

立位身体重心移動 両足を20cm程度離した開脚立位姿勢で重心を前後左右に移動する運動練習を行う。運動失調の場合、運動のオーバーシュートが起きる。重心移動動作をかなり遅い速度で行っても、動作の正確性が低下する。したがって、速度を緩徐にし、その間の過剰な重心移動を抑制しながら、動作の正確さを高める必要がある。
歩行 運動失調症では歩行の片脚支持の瞬間に急激な膝折れや体幹の動揺をきたしバランスを崩す事がある。支持脚の荷重感覚をしっかりと認識させ、体幹の安定性と下肢の中間姿位の保持を高めるため、骨盤、肩甲帯に術者の両手を置いて下方に圧迫を加え、これらの部位の安定筋群の同時収縮を高める。
開脚での歩行を早急に矯正しようとすると、転倒の危険が増すので好ましくない。
杖歩行に関しては上肢の運動失調の程度を十分に考慮する必要がある(杖を不正確につきバランスを崩す可能性、杖に頼る傾向の増強など)。

《脊髄(後索)性失調症》
1.フレンケルの運動
2.下肢を中心とした筋力増強(重錘、ゴムバンドの使用)
3.固有受容性神経筋促通法(PNF)
4.関節可動域訓練
治療方法と特徴・目的を以下に示す
治療方法 特徴・目的
フレンケルの運動 脊髄癆性運動失調に対して視覚で代償して運動制御を促通さ
せる。多発性硬化症による運動失調や小脳性失調症に対しても用いられ、重り負荷と組み合わせて行うと効果的。
小脳性失調症に応用する際、眼振症状や複視の有無を確認。
最初は臥位、座位で自分の上下肢を目標に合わせて運動させ
る練習を行い、立位・歩行での運動練習へと進める。
基本原則は1)注意の集中、2)正確性、3)反復であり、簡単な
単関節運動よりはじめ、複合的な共同運動へと進み円滑な日
常生活に結びつける。

上・下肢末梢部の重錘
負荷 測定異常による運動動揺性に対して、上下肢の相互関係、運
動の方向、速度、筋力を知る固有感覚による運動制御を促通
する効果がある。
通常、上肢で250~500g、下肢で500~1,000gの重錘ベルト
を末梢部に巻いて運動を行わせるとよい。
重量は患者によって最適量が異なるので個別に決定する。

弾性緊縛帯 上・下肢の近位部を弾性包帯で緊縛
すると、不規則な運動が制限される
ことにより上・下肢の目的とする運
動の動揺を軽減する効果がある。

固有受容性神経筋促通法
(PNF)
失調症では一般的に動的な動作練習に先んじて、肢位保持の
運動学習が重要といわれており、PNFのリズミック・スタビ
リゼーションが効果的である。
これは、律動的な細かい反対方向からの交互的な外乱を与え、
それに抗して上・下肢を一定の肢位に保持させる練習である。
立位姿勢安定のためにはジョイント・アプロキシメーション
が有効である。これは、立位で患者の両側の腸骨稜を術者の
両手で上から保持し、ゆっくりとリズミカルに下方に圧を加
える手技である。
立位保持練習や歩行動作練習の直前に行うと効果がある。

失調における運動学習 小脳性失調症ではフィードフォワード・コントロール(注1)が
より重度に障害される。ただし、症状の重症度にもよるが、
完全に運動プログラム作成機能が崩壊したとは考えられない
ので、フィードバック・コントロール(注2)による運動学習を
繰り返し行い、フィードフォワード・コントロールを再構築
させるように運動学習を進める必要がある。

注1:運動の結果を予測して望ましい運動ができるように制御
するもの。あらかじめ運動のプログラムが完成しており、そ
れを遂行するような形式の制御方法のこと。
注2:運動の結果を認識してその後の運動をより目的にあうよ
うに制御することであり、運動学習途中での制御方法のこと。

●リスク管理

①転倒等による外傷:予防は初期から重症に至るまで必要
②廃用性症候群:身体的・精神的・心理的
③合併症:臥床期では特に肺炎・尿路感染症等の合併症の予防と対策が必要
④突然死:自律神経症状がある例では睡眠時無呼吸や脳貧血、突然死の危険がある

理学療法上の問題点(配慮すべき点)

 1)病態や病状の経過を確認する臨床検査データを参照する。
 2)使用薬剤の種類、副作用、投与量の確認。
 3)呼吸困難や昜疲労性。
 4)上気道感染や尿路感染などの予防策の確認。
 5)消化器障害、栄養障害、循環器障害などの症候の有無。
 6)自律神経、内分泌関係の障害(立ちくらみ、発汗異常、排尿障害や起立性低血圧)の有無。
 ※失調症に筋力低下を合併している場合、筋力増強訓練が併用されるが、筋力の増強は運動失調の改善に役立つが、すべてではない。
筋力が理想どおり増強されたからといって、運動失調が完全に改善されることは少ない。失調症の特徴ともいえる昜疲労性とのかね合いで、慎重におこなうべきである。

●参考文献
1)石川齊、武富由雄:図解理学療法技術ガイド 第2版、文光堂 2001
2)黒川幸雄、菊地延子:臨床理学療法マニュアル、南江堂、1996
3)細田多穂他:理学療法ハンドブック・ケーススタディ、協同医書出版社、1994
4)田崎義昭他:ベッドサイドの神経の診かた 第15版、南山堂、1994
5)馬場元毅:絵でみる脳と神経 第2版、医学書院、2001
6)服部一郎:リハビリテーション技術全書 第2版、医学書院、1984
7)平島富美子他:運動失調の診断と治療、総合リハ27巻10号 911-916、医学書院、1999

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