予防、健康管理

不眠について~ 不眠の理解と治療のポイント ~

不眠症とは?

不眠症とは睡眠障害ではなく、寝つきが悪いとか、眠りが続かない、眠った後の疲労が回復しないという訴えがみられるものです。睡眠障害とは過眠や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠にともなう問題を指すことが一般的です。
何らかの心理的ストレスや環境変化による一時的な不眠は、生体の防御反応として正常なことです。なかでも神経質な性格の人は、ささいなことでも一時的な不眠が出現しやすいとされます。不眠症の大多数を占める神経症性不眠では、不眠に対する恐怖感がさらに不眠を悪化させるという悪循環に陥っていることが多くみられます。これは、自己の心身の状態に過度に敏感となる傾向のある人が、誰にでも生じるささいな睡眠変化を病的で危険なものと考え、過度に注意を向け不安を強く抱くにいたった、一種の不眠恐怖であるとされます。

不眠の症状

いくつかの型の不眠が生じますが、その中でも入眠障害を訴える場合が最も多いです。「なかなか寝つけないが、眠りについてしまえばある程度は眠れる」と訴えることが多くみられます。

●入眠障害
就床後、眠りに入るまでの時間が長くなり、「寝つきが悪くなる」もので、不眠の訴えの中ではもっとも多いものです。一般的には入眠に 30分~1時間以上かかり,本人がそれを苦痛であると感じている場合に入眠障害と診断されます。ただし、入眠時間は個人差や年齢により大きく異なるため、眠りに入る時間だけで診断するのではなく,本来の入眠時間と比べて長くなっているかどうか、それを本人が苦痛と感じているかが重要となります。

●中途覚醒
一度眠った後、翌朝起きるまでの間に何度も目が覚める状態です。ただし、中途覚醒は加齢に伴ってどんな人でも増加するので、高齢者ではその回数が数回以上であったり持続時間が長い場合を除けば必ずしも病的とは判断されないことがあります。

●早朝覚醒
朝早く目覚めて困るのが、早朝覚醒という不眠です。朝のきわめて早い時間に、まだ起きなくても良いのに眼が覚めてしまい、再び寝つくことができない状態です。どちらかというと、年配の人に多い不眠です。

●熟眠障害
睡眠時間は十分であるにもかかわらず、深く眠った感覚が得られない状態です。熟眠感は深いノンレム睡眠の量と関係があるとされていますが、不眠症の方では客観的な睡眠内容に大きな問題がないにもかかわらず、「ウトウトしただけで一晩中ほとんど眠れなかった」などと熟眠障害を訴える場合があります。不眠により夜間の睡眠時問が減少し、これにより日中の過剰な眠気が生じ、注意力低下、作業能力の低下が生じます。睡眠時間の減少に伴って日中の眠気は強まりますが、その関係は一定ではなく,睡眠時間が4時間以下に減少すると、日中の眠気は急激に強まります。

不眠の原因

●身体疾患による不眠
呼吸器系、心血管系、消化器系、筋骨格系疾患などの身体疾患では不眠症状が出現することがあります。身体疾患にともなう不眠の有病率は基礎となる身体疾患によって異なりますが、特に呼吸器系疾患、痔痛を伴う疾患では不眠症状が出現しやすい。

● 心理的要因による不眠
何か心配事や気になることがあって眠れない、興奮したりストレスが強くて眠れないというものです。このような不眠は誰でもよく経験するものです。
心理的な問題による不眠は一時的なことが多く、持続しても慣れてしまうことがあります。一時的に睡眠薬を用いたとしても、多くの場合は、問題が解決されれば睡眠薬なしで眠れるようになります。また、心配していることについて、ちょっとしたアドバイスや簡単なカウンセリングを受けることで、眠れるようになることもあります。

● 精神疾患による不眠
統合失調症やうつ病、躁病など、精神科の対象となる病気のほとんどが、発症の時や再発の時に不眠をともないます。統合失調症の急性期には不眠、中でも入眠障害や中途覚醒、熟眠困難が必発であり、寛解期に至っても同様の不眠が持続することが多くみられます。その原因については、統合失調症の背景にある神経機構の異常,過鎮静による日中の活動性低下、抗精神病薬の悪影響などが想定されていますが、その詳細はいまだ明らかでないとされます。


● 環境要因による不眠
眠るときの環境、すなわち睡眠環境は、よい睡眠を得るためのとても大切な要素です。環境的な問題で眠れなかったという経験は、おそらく誰にでもあるでしょう。たとえば、周囲の騒音のために眠れない、暑さや寒さで眠れない、明るすぎて眠れない、あるいは隣に寝ている人の歯ぎしりやいびきのために眠れないなどです。この場合は、睡眠薬を処方してもらう前に、眠りを妨げている原因を取り除くことが大切です。

●嗜好品や薬による不眠
日常的なものとしてよく知られているのはカフェインです。コーヒーや紅茶、緑茶はかなりの量のカフェインをふくんでいます。カフェインは中枢神経を興奮させる作用があるので、人によりますが、寝る前にコ―ヒーや緑茶を飲むと眠れなくなることがありますので、不眠が心配な人は、夕食後はこれらの飲用を控えたほうがよいでしょう。アルコールは一般的に、適当な量であれば緊張をほぐして睡眠に役立ちますが、飲みすぎるとかえって眠れなくなったり、途中で目が覚めて眠れなくなったりすることがあります。またアルコールは、レム睡眠を抑制する作用をもつことが知られています。
薬物では、インターフェロンや抗がん剤などが不眠につながりやすい薬です。ただし、その他の薬でも不眠になることがあるので、薬を飲んでいて不眠になった場合、医師とよく相談することが大切です。

不眠の治療

不眠症の治療には、大きく分けて睡眠薬を使う治療と睡眠薬を使わない非薬物治療があげられます。

● 薬物治療
不眠の原因が明らかである場合は、その原因に対する治療を行なうことで、症状の改善がみられるものもありますが、不眠の改善が見られない場合は、不眠のタイプに応じて、医師により睡眠薬を処方してもらう必要があります。睡眠薬を飲む場合は、薬の作用や副作用、服薬に際しての注意事項などに対しても理解しておく必要があります。

● 非薬物治療
1.生活習慣(睡眠衛生についての学習)
睡眠衛生とは、睡眠に関連する問題を解消し、睡眠の質や量を向上させることを目的とした入眠手法や睡眠環境の整備を整えることです。

2.精神療法(森田療法)にもとづく生活習慣

ひと口に不眠といってもその病態はさまざまで、薬物治療の必要のない場合から、通常の睡眠薬を投与するとかえって病状が悪化してしまう場合までが含まれています。不眠症の大多数を占める神経症性不眠では、自己の睡眠状態に関する主観的評価と客観的評価が一致しない場合が多いとされます。つまり神経症性不眠症は自己の睡眠問題のみに強くとらわれ、このとらわれにより良好な睡眠が持続的に障害されている状態です。不眠に対する恐怖感がさらに不眠を悪化させるという悪循環に陥っており、睡眠・睡眠薬に対する誤った知識を持つようになると、薬物治療もうまくいかないことが多いです。このため、不眠を主訴とする患者の治療に際しては、不眠を引き起こしている基礎疾患、あるいは薬物治療の有無にかかわらず精神療法的アプローチが極めて重要になります。

3.自律訓練法

自律訓練法は、心身を効果的にリラクゼーションさせる代表的な方法です。これは「身体をゆるませて、心をほぐす」という方法で、身体の部位ごとに力を抜いていき、リラックスした時の身体を意識的に再現して体のリラックス状態を作り、その精神面への影響を期待するというものです。もともとは心身症の治療として発展したものですが、ストレスや緊張を和らげる効果があることから、健康増進法としても広く一般的に用いられています。
 心身がリラックスする時はまず、手足の筋肉が弛緩します。これは、なんとなく手足が重たいという状態です。次に、筋肉が弛緩すると血流がよくなり、足の皮膚の温度が上がって暖かさを感じるようになります。これを、意識の方から手足が重い、暖かいと自己暗示を加えることで本当に心身がリラックスしてくるわけです。

4.リラクゼーション
スムーズに眠りにつくためには、眠る1~2時間前から脳をリラックスさせることが大切です。勉強や仕事など頭を酷使するような作業は避けて、お気に入りの音楽を静かに流したり、軽めの雑誌や本を読んだり。室内の照明を少しダウンさせるのも効果的です。また、眠る前にいつもすることを自分なりの「セレモニー」として決めておくと、身体も脳もスムーズに眠りの準備へと入りやすくなります。どうしても眠れないときは、無理に眠ろうとしないこと。眠らなければならないという焦りが神経を興奮させて、ますます眠れなくなります。

眠る前にしていいこと
ぬるめのお風呂でリラックス ハーブティーでリラックス 音楽や環境ビデオで
リラックス
寝る前に37~39度ぐらいのぬるめのお湯にゆっくりつかると、心身ともにリラックスできます。 カフェインの含まれていないハーブティーは香りにもリラックス効果が。 眠りを誘う音楽や心を落ちつかせるビデオなどがおすすめ。

空腹のときはホットミルク 夜はリビングルームの
照明を控えめに  
空腹感を和らげ、身体が温まり、心地よい眠りを誘います。 昼間のような照明は自然な眠気の妨げになります。

眠る前にしてはいけないこと
寝る前に熱い風呂に入る コーヒーや紅茶など
カフェインを含む飲み物 寝る前のおやつや食事 睡眠薬がわりの寝酒

勉強や激しい運動 テレビやゲーム、
パソコンなど 寝る前の喫煙 明るすぎる室内照明

5.腹式呼吸
一般に肩をはって胸を開くような胸式呼吸の場合は、基本的な横隔膜の運動の他に胸の筋肉を緊張させて、胸腔内を広げて息を吸っている状態です。この呼吸は、短時間に数多くの呼吸をして、全身に多くの酸素を送るのには適していますが、深くゆったりした呼吸は出来ません。これに対して、腹筋を使ったゆっくりとした腹式呼吸では、息を吸い込むと横隔膜がぐっと下がって肺が広がり、胸全体が陰圧になって肺のすみずみにまで空気が入り、反対に息を吐くと横隔膜は下がって肺の収縮を肋け、空気が十分に吐き出されます。心身がリラックスした状態で行われるもので、自律神経のバランスがいい状態を示しています。これを利用して、腹式呼吸を意識的にすることで、リラクゼーション効果を得ることも可能なのです。

良い睡眠をとるための生活習慣改善の10ヵ条

1.自分の睡眠特性を知る
 朝方か夜型か? どのくらいの睡眠時間をとると調子がよいか?
 睡眠時間が長ければ長いほど健康に良いわけではない
2.規則的な睡眠スケジュールを守る
 毎日、一定の時刻に就床、起床
 寝室は眠るためだけに使用する
 ただし、就寝時刻についてこだわりすぎは禁物(日中の活動などに応じて1~2時間の幅ができることを知っておく)
3.睡眠が充分かどうかは日中の眠気で判断する
4.眠る前にはリラックス
 軽い読書、音楽、ぬるめの入浴など
5.睡眠を妨げるものを避ける
 就床前4時間のカフェイン摂取(コーヒー、コーラ、茶、スタミナドリンク)
 就床直前の喫煙
6光の利用
 朝はカ-テン、雨戸をあけ日光を取り入れると目覚めが良くなる
 日中には日光浴を
 夜は明るすぎない照明を
7.規則正しい3度の食事
 特に朝食は体内時軒のスイッチオンに大切
 就床直前の食事は眠りの質を悪化させる
8.適切な運動習慣
 毎日の運動があると睡眠の質が良くなる
9.昼寝をするなら30分以内
 昼過ぎの一定の時刻
10.睡眠薬服用上の注意
 一定時刻に服用
  アルコールと併用しない

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